【妊娠力を上げたい方へ】不妊の原因とおすすめの漢方処方は?
「子宝相談」など、大きな目立つ文字の看板を掲げる漢方薬局を見かけたことはないでしょうか?
実際に不妊症の悩みについては、西洋医学的なアプローチと漢方医学的なアプローチが両方あります。
不妊症に対して漢方薬の処方をする意味は、服用することで妊娠できるということではありません。
あくまで西洋医学の治療に加え、漢方薬やサプリメントなどを用いて各々の体質に合った形で授かりやすい体づくりをしていくことが目的です。
今回は、不妊の原因とメカニズム、不妊症に悩む方におすすめの漢方処方についてお伝えします。
プロフィール:笠原友子
京都府丹後地方出身
北陸大学薬学部薬学科(生薬学教室)、金沢大学医薬保健学総合研究科卒 医科学修士
金沢大学先進予防医学研究科在学中
病院薬剤部勤務の後、能登半島で開局
創業95年の薬局の3代目嫁として地元はもちろん全国各地からの相談を受けている。
糖尿病など生活習慣病や日常のさまざまな体調不良の漢方薬と栄養素を使った相談と生活習慣の改善指導を実施。処方箋による保険調剤を併設。
不妊の定義
日本産科婦人科学会では、不妊を次のように定義しています。
「不妊」とは、妊娠を望む健康な男女が避妊をしないで性交をしているにもかかわらず、一定期間妊娠しないものをいいます。日本産科婦人科学会では、この「一定期間」について「1年というのが一般的である」と定義しています。
引用元:日本産科婦人科学会のホームページ
ただ後述するように、排卵がない、子宮内膜症、骨盤腹膜炎など妊娠しない原因がはっきりしていることがあります。
その場合は、1年を待たずに産婦人科の病院・クリニックで検査や治療に踏み切ることも珍しくありません。
結婚年齢の上昇に伴う妊娠力低下のリスク
不妊のカップルは10組に1人と言われていますが、実際にはもっと多いのではないかと言われています。
男女ともに結婚、出産を考える年齢が年々上昇しているためです。
男女ともに年齢が上昇すると、妊娠しにくくなることは広く知られており、治療を先送りすることで、妊娠力が上がらないリスクが増えてきます。
妊娠のピークはだいたい21~35歳くらいと言われており、その後49歳頃に閉経するまで妊娠力は低下するというのが一般的な見解です。
ただ、現在は35歳以降に結婚する女性も非常に増えてきています。
上記、日本産科婦人科学会が定義する「一定期間」は、2015年以前は「2年間」でしたが、結婚年齢の上昇という経緯もあり、現在は「1年間」に短縮されています。
不妊症の原因
女性側の不妊原因 ※日本生殖医学会より引用
不妊の原因は必ずしも女性側にあるわけではなく、男性側にある可能性もあります。
また、男性側にも女性側にも何も原因がない、はっきりしないこともあります。
一般的には、次のように考えられています。
・男性の生殖器系では、不妊症は精液の排出の問題[1]、精子の量の不足や減少、精子の形(形態)や動き(運動性)の異常などが最も一般的な原因となっています。
・女性の生殖器系では、特に卵巣、子宮、卵管、内分泌系のさまざまな異常が不妊症の原因となることがあります。
引用元:日本WHO協会ホームページ
なお、男性不妊については、別記事でお伝えします。
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ここでは、女性側の不妊の一般的な原因として挙げられる、排卵因子、卵管因子、頸管因子、免疫因子、子宮因子について簡単にお伝えします。
排卵因子
規則的な月経がある女性の場合は、月経の約2週間前に排卵が起こり、排卵後に基礎体温の上昇があります。
極端な月経不順などでは排卵が起きず、妊娠しません。排卵が起きない原因は、主に次の通りです。
・甲状腺など女性ホルモンを出す仕組みに影響を与える病気
・多嚢胞性卵巣症候群
・早発卵巣不全(早発閉経)
・高プロラクチン血症
・極度の肥満、体重減少
・極度の疲労、ストレス
日常のストレスや、過酷なダイエットも排卵障害の原因になるので注意が必要です。
排卵障害がある場合、基礎体温の上昇がない場合や、体温の変動が激しくグラフ化するとギザギザになる場合がありますが、この傾向によっても適切な漢方処方は変わります。
卵管因子
卵管が炎症などで詰まっていると妊娠は起こりません。卵管が詰まる原因としては、以下の病気によるものがあります。
・卵管炎
・骨盤腹膜炎
・クラミジア感染症
・子宮内膜症
・虫垂炎など骨盤内の手術を受けて卵管周囲の癒着がある場合
頸管因子
排卵期におりものの増加が認められます。しかし、次のように頸管粘液量が少なくなった場合、精子が子宮内に通りにくくなり、結果妊娠しなくなります。
・子宮頸部の手術
・子宮頸部の炎症
免疫因子
人間には、もともと細菌やウイルスから身を守るための免疫力が備わっていますが、この免疫力のために、精子を攻撃してしまう場合があります。
これが抗精子抗体、精子不動化抗体ですが、これらの抗体を持つ女性は、精子を攻撃してしまい、妊娠力を引き下げてしまいます。
子宮因子
以下の場合、着床障害が起こり、妊娠が起こりません。
・子宮筋腫
・粘膜下筋腫
・子宮内膜ポリープ
・アッシャーマン症候群
・子宮の先天的な形態異常
原因不明の不妊
不妊の原因は、主に上記の因子によるものですが、特定の原因のない不妊も増えています。
考えられる原因としては、先にお伝えしたように、男女の加齢に伴い精子、もしくは卵子の機能が低下していることが考えられます。
不妊の漢方処方
このように、不妊の原因は様々で、西洋医学的なアプローチをするにしても、漢方医学的なアプローチをするにしても、各々の原因や症状に合わせた対策が必要となります。
ここでは、代表的な不妊の漢方処方についてお伝えしますが、各々の症状や体質、月経周期に合わせて服用するようにしてください。
当帰芍薬散(トウキシャクヤクサン)
・月経異常(月経不順、月経痛)で冷えを伴う
・高プロラクチン血症
・更年期障害に付随する諸症状
・妊婦の腹痛
・習慣性流産の改善
・気管支喘息
・腎疾患
このような症状や悩みに対して、古くから処方されています。
成人女性に多く用いられていますが、喘息や腎疾患などに対する症状の場合は男性にも利用されることがあります。
服用して胃の不快感を訴えるようなときは、主治医に相談するようにしてください。
当帰芍薬散加附子(トウキシャクヤクサンカブシ)
・月経異常(月経不順、月経痛)や更年期障害で強い冷えがある
・冷えの強い妊婦の腹痛、つわり
・習慣性流産の改善
当帰芍薬散と同じ目的で利用され、特に冷えが強い人に適応されます。
附子が配合されているため、妊婦には投与しないのが望ましいとされていますが、当帰芍薬散には流産予防の働きもあることから、妊婦にも利用されています。
ただし妊娠中の利用については、体調変化に注意する必要があります。
服用して胃の不快感を訴えるようなときは、主治医に相談するようにしてください。
桂枝茯苓丸(ケイシブクリョウガン)
・月経痛
・更年期障害の冷えやのぼせ、めまい、精神不安
・性器不正出血、月経過多、痔疾などの出血
・皮膚炎、蕁麻疹など皮膚疾患
・打撲などによる内出血
血流の改善や止血、抗炎症に対する処方として、広く適用されています。
こちらも皮膚疾患や痔疾、打撲などがあった場合は男性にも多く利用されている漢方です。
不妊の対策には用いられますが、妊婦の使用は控えるようにします。特に流産しやすい人の場合は利用しません。
桂枝茯苓丸料加薏苡仁(ケイシブクリョウガンリョウカヨクイニン)
・月経痛
・更年期障害(のぼせ、頭重、めまい)
・湿疹、手足のあれ
桂枝茯苓丸と、基本的に利用法は同じですが、特に痛みが強い場合や、皮膚症状が強い場合に用いられます。
桂枝茯苓丸同様、妊婦の利用、特に流産しやすい人の場合は、利用を控えるようにします。
加味逍遥散(カミショウヨウサン)
・更年期障害に付随する諸症状(不定愁訴)
・うつ、神経症などの精神疾患
・皮膚疾患
・便秘
・痛み、冷え、月経不順
女性の更年期障害に多用されますが、ストレスが多くイライラが多いような方、気分の落ち込みが強い方にも服用されます。
女性の場合、症状が月経周期と関係していることが多いです。
急性期にはほとんど使われず、ほとんどが長期利用になるため、甘草による副作用に注意が必要です。
温経湯(ウンケイトウ)
・更年期障害で冷えを伴うもの
・手荒れ、湿疹、しもやけ
・不妊症
・月経不順、月経困難症
・排卵障害
主に冷えや疲れが目立つ方に処方されることが多く、体力に関係なく利用されます。
長期の服用になることが多く、甘草の副作用には注意が必要です。
柴苓湯(サイレイトウ)
腎疾患や急性胃腸炎などに処方される柴苓湯ですが、多嚢胞性卵巣症候群による排卵障害に有効との報告もあります。
桃核承気湯(トウガクジョウキトウ)
・便秘を伴う精神不安(イライラ)や興奮の鎮静
・更年期障害
・腰痛(精神不安を伴うことが多い)
・湿疹などの皮膚疾患、強いかゆみ
・月経不順、月経困難症
・月経時や産後の精神不安
精神不安や下腹部・腰部の痛み、便秘に利用されることが多いです。
妊娠初期や流産しやすい女性、体力・気力がない、下痢をしているような場合には利用しません。
また、甘草の副作用に注意が必要です。
通導散(ツウドウサン)
・打撲や捻挫、それに伴う内出血
・便秘を伴う月経痛や更年期障害の症状
便通をつけることで症状の改善を期待しているため、下痢をすることがあるので、ひどい場合は医師に相談が必要です。
【まとめ】症状や体質、月経周期、基礎体温の傾向などに応じて適切な漢方処方を
以上、不妊の原因やメカニズム、漢方処方の種類についてお伝えしました。
不妊には様々な原因が考えられるので、症状や体質、月経周期、基礎体温の傾向などに応じて適切な漢方を処方してください。
また、病院の治療や漢方処方だけでなく、日頃からストレス対策、睡眠時間をしっかりとる、過激なダイエットは避ける、冷え対策を行うなどセルフケアもしっかり行うようにしましょう。